この写真の空き地は近所にある柵に囲まれた団地跡。
ここに青青と雑草が茂って、それが風になびくと、緑の海みたいに
見えていた季節、おぼろ月の真夜中にここの前を
通り過ぎようとしていた時に、空き地のちょうどまん中、コンクリート
スロープが終わるあたりに、制服を着た女子高生が立っていた。
こんな時間になんで?という疑問より先に、妙にはっきりとした説得力を
ピンと伸ばした背中から感じて、僕はその疑問をフトコロにしまった。


薄く雲がかかった月の光は、それでもしっとりと草原のようになった空き地を
照らしていて、両手をポケットに突っ込んで背中を伸ばして向こうの空を見つめる
女の子を遠慮がちに浮かび上がらせていた。
少し風が吹いてかすかな音を立てて草を揺らしていた。


以前ここに住んでいた子なのか、それとも思いがけずぽっかり開いた空間で
月を眺めてみたくなったのか。どちらでもいいけれど、そこを通り過ぎるまでの間、
僕はその少しばかり現実感の欠けた、あの月の仕業のような気がしないでもない
光景に見とれていた。