村田朋泰展/俺の道@目黒区美術館

ygi2006-03-29


あそこまで作家の情熱とその世界観にどっぷり浸されたのははじめてかも知れない。
というのは、こないだの日曜日に行った村田さんの展覧会の話し。
近頃?北欧人気なんかも手伝ってか、ム−ミンやチェブラーシカ、ヤン・シュバイクマイエル、
ユーリ・ノルシュテインなんかの人形アニメーションが注目されているけど、
この村田さんも人形を使ったアニメ−ションの作家さん。
ミスチルのPVを手掛けているので、知ってる人は知ってるんじゃないかな。
僕はミスチルってあんまりなので、知らなかったです。
が、もう彼の名前は忘れないと思う。


まず会場に入ると、中にCDがばらばらと入った古いスポーツカーが置いてあって、
その向こうには腹にモニタのしこんであるでかいロボットの人形が。
その横には昭和コンシャスなガチャガチャが置いてあって、これは実際購入できる。
受け付けで景品と変えてもらえるみたい。そこかしこに昭和箱庭駄菓子屋的なジオラマ
置いてある。中の部屋の角におばあちゃんがうたた寝していたりして微笑ましい。


2階に上がると、縦長の箱に入った、たワイもない起きたらすぐ忘れてしまいそうな夢を
切り出したような光景がジオラマで展開されている。逆さに走るサラリーマン、無数の指に囲まれた人etc...


館内で一番の大きさの展示室は薄暗く、立体などの展示は一切無い。
その代わり、広大な部屋の真っ白な壁にプロジェクタを何個も駆使した、少し下品で
アナーキーで、ロウファイな映像が流れている。凹凸のある天井と壁に、投影されたその映像は
あたかも壁が急角度で向こうへ尖っていっているかのように見えるように設定されていて、
狂った遠近感の中でソファに座りながらその映像をみていると、妙にワクワクしてくる。


順路を辿ると、彼の作中で使用された人形が何体も置いてある。手作りの衣装を着ている
人形達のタッチは様々で朴訥で少し哀しげなスーツに男性、魚人間、人というよりゴリラに
近いようなメガネ親父、ツルッとした質感のなで肩の女の子。書き分けがすごく上手い。
周りには映像のコンテがぐるりと。近くの小さいテレビでその映像が流れている。


メインの展示室には撮影に使われたジオラマが置いてある。ジオラマは砂嵐やじゃみじゃみの
モノクロ画像を写し出す旧式のテレビで支えられている。ジオラマは和紙や板を組み合わせて
作られていて、覗いてみると横丁が続いていたりして、とても楽しい。
携帯の画面サイズくらいしかないテレビで映像が流れていて、みんな食い入るようにみている。
これは面白い演出で、見たい人は顔をくっつけなきゃあ見れないような仕掛けになっている。


印象に残ったのは、隅に展示してあった、雪山の天辺にある、出鱈目に増築しまくって、
錆びて朽ちかけてしまっているけど、物干台には干し物があって人が住んでいる事がわかる、
全て廃材でできている鬼太郎ハウスみたいなジオラマ
家の壁に貼られた住所の看板が目黒区三田になっていたのを見て、繊細な人だなぁと思った。


その反対角には、外から天井裏が覗けるようになった小屋があって、天井裏には細いスリットから
見える映像が流れていて、一階は靴を脱いで上がれる白熱灯の灯る畳みの部屋になっていて、
小型のテレビには映像が、散らばっているアルバムにも作品が入っている。背が焼けた本や
ちゃぶ台なんかの味付けも見事でした。人が多くて入れなかったのが残念。


その展示室の横の部屋は、普段は無いはずの4枚の団地の鉄製のドアで仕切られていて、
丁寧に横には部屋番号表が付けられている。
中に入ると、今度はふすまで仕切られた部屋があり、そこの中には様々な形の椅子に座って
大勢の人が映像に見入っている。

オバカな映像もあるけれど、大半はさびれた町、古びた一軒家が舞台の、物憂げで、
夢と現実の真中あたりで少し死の予感も感じつつ、淡々と物語が進むアニメーションが多い。
そこでは登場人物はみんな、思い出に生きる希望を見ている。
それはすぐに手からほどけてしまうような、とても儚い希望で、その思い出が思い出に
過ぎない事を知った時の、人形の表情の切なさにちょっと泣けてきてしまった。
切ねーの。本当に。そうかー、人形って切ないもんだったんだな、と思いあたった感じ。


最初はけっこうアナーキーな感じなのかな?と思っていたけれど、見終わってみれば
村田さんの、人の仕草に対する愛情や、人が恋人や家族に抱く愛情に対する愛情、
質素さや謙虚さに対する愛情、人形に託して表現した世界にすっかり魅せられてしまった。
本当にいい展示でした。

もっと前に見ておけばもう一回行けたのに、と悔やんでます。
あと1日しかないけど、ここを見てくれた人が一人でも見にいってくれたらいいなと思います。

村田朋泰展/俺の道@目黒区美術館
□会期 2006年2月11日(土・祝)〜3月31日(金)
□開館時間午前10時〜午後6時(入館は午後5時30分まで)
□会場=目黒区美術館
□観覧料=一般600(500)円/大学生500(400)円/高校生・65歳以上300(250)円
 小中生無料 ( )内は20名以上の団体 心身障害者は半額
□美術館HP http://www.mmat.jp/
□作家HP http://www.tomoyasu.net/