画狂人 ホルスト・ヤンセン-北斎へのまなざし


画狂人ホルスト・ヤンセン―北斎へのまなざし (コロナ・ブックス)
2回続けて北斎に触れるのは偶然?資料探しにいったらこんな本を発見。


僕がもっとも好きな画家、ホルストヤンセン。予備校時代に先生がみせてくれた画集の、
古びた紙上に精緻な線描で描かれた、歪んでグズグズに崩れ半分獣のようになった画家自身の自画像が
何ページも何ページも描かれていて、頭に焼き付いて、大学生になってから本屋にいっては画集を眺めて
感銘を受けていた(画集は高くて買えなかった)。
日本語のテキストが全然無くて(本当は82年88年91年に日本で展覧会があったみたい)、画集のテキストは
何語かすら分らないし、僕にとっては存命なのか故人なのかすら分らない中で、手が届く画集を買っては
眺めて、少し画風を真似したりしていた。


彼が描く対象物は、風景、人物、静物、何であれ、荒廃、死、衰退のイメージを伴い、
特に人物を描く時、人物のフォルムは歪められ、部分的に膨張したり過度に痩せ細ったり、動物と
溶融していたりするし、特に女性を描く時はサディスティックな描写も加わって、
見る人に不安を抱かせる。
が、その卓越したデッサン力によるフォルムと精密極まる筆致は、モチーフの凄惨さとは別の所で
見る人をノックアウトしてしまう説得力を持っている。


この本で、初めて知るヤンセンの素顔は、その前から想像していたものと大体近かった。
明らかな北斎への敬愛、偏屈で自滅的で気分屋な性格、そして生きる事は描く事という生き方。
北斎と同じ90歳まで生きて同じ数の作品を残すと言っていたにもかかわらず、
65歳で亡くなってしまうわけだけれど、その人生の師にたいする一途な憧れは素直そのものだ。
出来れば90歳まで生きて、描いて描いて描いていて欲しかった。


驚きだったのが、春日あたりにあって気になっていた、紙の専門店「直」のオーナーの
方が日本人にしてヤンセンとかなり身近な人だったって事で、ああ、そういえばあの店の
看板の直の一文字、アレはヤンセンが作品の中で披露していたものと一緒だった。
今度行ってみよう。できたらオーナーの方と少しヤンセンについて話をできたらいいな。